季節の変わり目や衣類を脱いだ後、また入浴後や就寝中に肌がかゆくなる…多くの人がそんな経験を持っているのではないでしょうか。
つい無意識にかきむしってしまったり、ポロポロと皮が剥け余計にかゆくなったり…乾燥肌の症状に悩む声は尽きません。
気温の変化や衣服の摩擦などの外部刺激等により起きるかゆみを抑えるにはどうしたらいいのでしょうか?肌の仕組みとかゆみの原因について解説し、その解決策とよくある質問についてお答えしていきます。
乾燥肌の人にかゆみが起こりやすい理由
肌がカサカサして乾燥する…そんな人に起こりやすい肌のかゆみ。肌荒れなどの様々な肌トラブルの兆候でもあるかゆみはなぜ起きるのでしょうか。
乾燥肌にかゆみが生じる仕組み
肌の乾燥が進むと、肌表面がカサつき、かゆみを感じることがあります。
これはドライスキン、乾皮症、皮脂欠乏症などと呼ばれる症状で、肌表面の皮脂が減少することにより乾燥し、角質層が過剰にはがれて皮膚がカサカサしたり、ひどいとひび割れが生じたりするケースもある病態です。
肌には本来、天然のバリア機能が備わっていますが、肌内部に皮脂と水分が十分に満たされていないと、このバリアが機能せず、乾燥して外部からの刺激を受けやすくなります。乾燥によってかゆみを伴うこともありますが、これには人体の免疫反応が関わっています。
バリア機能がもろくなり、刺激を受けやすくなった肌が外部から刺激を感じると、本来真皮の間にある神経線維が活性化されて表皮まで伸びはじめます。さらに、免疫系を構成する細胞の一つである肥満細胞からは、ヒスタミンなどのかゆみ物質が分泌され、脳にかゆみの信号を送ります。
外部からの刺激を感じた結果、その原因となる異物を排除しようと脳が「掻きたい」という欲求を起こさせるのです。
かゆみを引き起こす主な原因
かゆみはおもに、バリア機能が衰えた肌に外的な刺激を受けたり異物が付着したりする際に起きる反応です。
肌への刺激は多種多様にわたり、例えばエアコンの風、シェーバーによる刺激、花粉などのほか、衣服の擦れや締め付け、化粧品に含まれる成分、洗いすぎや固いタオルでのゴシゴシ洗いによる肌摩擦なども挙げられます。
しかし健康なバリア機能を備えた肌であれば、多少の刺激や肌ストレスは防いでくれるため、このようなかゆみ反応は起きにくいと考えられます。つまり、乾燥によってこのバリア機能が衰え、刺激を感じやすくなってしまうことこそが根本的な原因であるともいえるのです。
そのほか、バリア機能は加齢によっても衰えます。年を重ねるごとに皮脂分泌量が低下していき、肌が乾燥しやすくなってかゆみを生じやすくなることは一般的な現象ですが、一日中肌を乾かさないようにあらかじめ乾燥を予防し、バリア機能を整えてあげることでかゆみの原因を抑えることもできるのです。
乾燥肌のかゆみ予防と対策
乾燥によって引き起こされるかゆみですが、日常生活の中でかゆみを防ぐにはさまざまな予防法があります。
乾燥肌のかゆみ予防
肌に優しいスキンケアアイテムで保湿する
まずは長時間乾燥を防ぐためのケアアイテムの成分に注目しましょう。肌に潤いを与えるスキンケアだからといって、アルコール(エタノール)やパラベン、香料、鉱物油などを含んだアイテムを使用するのはかえって肌への刺激になることがあります。
乾燥肌はバリア機能の衰えた敏感肌でもあると自覚し、肌に負担の少ないアイテムを使用すると良いでしょう。毎日丁寧に保湿をして、乾く隙を与えないケアをすることで乾燥を予防できます。
保湿成分にもさまざまなものがありますが、肌のバリア機能を構成する成分でもある、ヒト型セラミド配合のアイテムがおすすめ。肌の角層まで浸透し、バリア機能の向上が期待できます。また、お手入れは化粧水や美容液のみで済まさず、油分の多い乳液やクリームでうるおいにフタをすることが大切。オールインワンで手軽に乾燥予防できるアイテムを選べば、肌への摩擦も少なくなり肌への刺激を減らすことができます。
刺激の少ない素材の服を着る
化学繊維が肌に触れて起きる「化繊負け」などは、子どもにもみられる肌トラブルです。摩擦や静電気が起きやすく、かゆみを起こすだけでなく、湿疹などにもつながります。肌への刺激から、アトピー性皮膚炎などの際にも避けたほうがよいでしょう。
化繊に限らず、綿やウールでもチクチク感じる生地の衣類は避け、下着やインナーだけでも肌触りの良い綿やシルクを選ぶようにしましょう。首周りは特に皮膚が薄く、刺激に敏感なため要注意。インナーなどを工夫し肌が直接触れないように気を配ることが大切です。
乾燥肌のかゆみ対策
すでに乾燥によるかゆみが生じていたり、掻き壊しなどで症状が悪化していたりする場合は市販の医薬品も効果的です。
かゆみ止めとして、抗ヒスタミン成分や局所麻酔成分、ステロイド成分などが含まれたさまざまな種類の外用薬が市販されていますが、乾燥を原因とするかゆみに適したかゆみ止めを選ぶためには、薬剤師のいる薬局で相談の上、購入すると良いでしょう。
最近では皮膚科で用いられるヘパリン類似物質が配合されたクリームやローションなども市販されていて、保湿のほかに血行促進、抗炎症作用の働きで乾燥肌に優れた効果があるといわれています。また、尿素配合の外用薬は、硬くなった角質を柔らかくし肌の自然なターンオーバーを促す効果があるため、これも加齢などによって起きる肌の乾燥にはおすすめです。
症状が強かったり、かゆみがおさまらなかったり、何度も繰り返す場合などには早めに医療機関(皮膚科)を受診し、医師に相談しましょう。
皮膚科を受診すれば適切な抗炎症薬や治療薬を処方してもらえますし、かゆみの原因が外的刺激だけなのか、アトピー性皮膚炎や内臓疾患などの疑いがあるのかなどの診断を仰ぐことができるため、早めに受診することが大切です。
乾燥肌のかゆみが生じたときの注意点
乾燥などが原因となって引き起こされるかゆみですが、肌を守るためにはいくつか注意しなくてはならないポイントがあります。
かきむしらない
乾燥して敏感になっている肌に、外界からの異物が付着したり肌ストレスとなる刺激が起きたりすると、脳からの指令により「かきたい」という欲求が起こります。
しかし皮膚表面をかきむしると、ただでさえ薄くなっている肌がさらにダメージを受け、バリア機能がもっと低下し、ますます乾燥が進むという悪循環を起こしてしまいます。また湿疹の原因にもなります。
かきむしりたくなるほどかゆくなる前に、こまめに保湿したりかゆみ止めを塗布したりするよう習慣づけましょう。
もしかきむしってしまった場合は、まず炎症を抑えるため清潔にした上でかゆみ止めを少量ずつ塗布します。出血した場合は、血が止まった後に使用し、患部にはできるだけ触れないよう注意しましょう。
熱いお風呂に入らない
人間の皮脂は40℃前後を超えると溶けて流れてしまうといわれています。そのため、熱いお湯に浸かると水分の蒸発を防いでくれる皮脂膜まで洗い流されてしまうことに。肌の乾燥が悪化し、よりかゆみがひどくなる原因になるので、温度は38~40℃程度のぬるめにして長風呂にならないように入浴しましょう。
身体を洗う際は洗浄力が強すぎるものは避け、保湿効果のある入浴剤やボディソープを使うのもおすすめ。身体や顔を洗うときはゴシゴシこすらず、たっぷりの泡でやさしく洗うと洗いあがりのかゆみや肌荒れを防ぐことができます。
乾燥によるかゆみが生じたら注意したい肌トラブル
乾燥で肌がかゆい…そんなとき、ケアとともに気にしてほしいのが肌トラブル。肌をきちんと観察し、悪化する前に気づくことが重要です。
かぶれ
接触性皮膚炎とも呼ばれ、かゆみのほか、ぶつぶつ、赤み、水ぶくれなどが生じる場合がある「かぶれ」。肌にとってアレルゲンとなる物質が接触したことにより生じる炎症で、アレルゲンはさまざまなものがあります。植物や化学物質、金属、繊維など、身近なものとの接触で起こることも。
自分の体質とアレルゲンを認識して、身の回りの物を見直し、接触を避けることが大切です。
じんましん(蕁麻疹)
じんましんは、皮膚の一部が盛り上がり、短時間で消える皮膚疾患です。強いかゆみを伴いますが、概ね1日以内に収まるような一時的な症状であることが多いもの。
原因は不明瞭であることも多々ありますが、食事に対するアレルギー反応や、ストレス、感染症などが要因の一つと考えられています。
じんましんが発生した際は、まず食事や生活習慣を見直し、心当たりがあるところから改善するとよいでしょう。慢性的に出現する場合は、一時的に抗ヒスタミン剤や抗アレルギー剤を内服することも有効です。皮膚科医に相談し、適切な対処をしましょう。
乾燥肌のかゆみに関するQ&A
かゆみを伴う乾燥肌の場合によく挙がる質問をまとめてみました。肌がかゆい、と感じることが多い場合はぜひ参考にしてみてくださいね。
Q. 年齢によってかゆみの違いはある?
A. 年齢に応じて肌の特徴と起きやすいトラブルは変化します。
かゆみが乾燥によるバリア機能の低下により生じるものであれば、その原因には年齢によってさまざま。子供の場合、アトピー性皮膚炎や、おむつや繊維などによる接触かぶれにより、かゆみが生じることがあります。
また、高齢者に特に多いのが、加齢によって老人性乾皮症(皮脂欠乏性湿疹)を発症する場合です。水分を保持する機能が低下し、皮膚が乾燥しやすくなるもので、粉吹きが生じたり、かゆみが生じたりします。市販の保湿剤などでケアすることが多いため、薬剤師にも相談するとよいでしょう。
Q. 男女でかゆみの起こりやすさは異なる?
A. 男女いずれも、肌のバリア機能が低下した際にかゆみが生じやすくなりますが、ダメージの種類と肌質によって差があります。
男性のほうが肌のお手入れ不足や髭剃りによるダメージが起きやすく、バリア機能が低下してかゆみが起きやすいこともあります。
男女の肌については、一般に男性の肌のほうが皮脂の分泌が多くベタつきやすいとされているため、男性用のスキンケアでは水分を多めに与え、乳液、クリームなどでうるおいをキープするとよいでしょう。
逆に、女性は男性と比較して、皮膚が薄くデリケートで、外的刺激を受けやすいと考えられています。男性と女性で肌の特徴が異なるため、それぞれに合ったケアで乾燥とかゆみを防ぎましょう。
肌のうるおいを守る皮脂の分泌は、思春期を超えると徐々にその量が少なくなってきます。
特に女性は35歳頃より分泌量が著しく低下。そのため同年齢の男女を比較すると、女性にしわが多いのです。もちろん男性も緩やかに低下していきますから60歳台には皮脂欠乏性湿疹の方が多くみられます。
かゆみが生じるまえに乾燥予防
一度肌が乾燥してかゆみが引き起こされると、寝ている間などに無意識にかいてしまうなどして余計に刺激を与え、肌が荒れて悪循環に陥ってしまうことがあります。そうならないためにも、あらかじめ肌にうるおいを保ち、乾燥に伴うかゆみに備えておく必要があります。
肌を乾かさないよう気を配り、肌内部に長時間うるおいをキープできるよう、皮膚表面に皮脂と水分が保たれていればかゆみは予防できるでしょう。
もちろん、季節の変わり目などでかゆみを感じてしまっても遅くはありません。しっかりと乾燥予防ケアを徹底すれば乾燥の悪循環を断ち切り、かゆみを改善させることができますよ。
【監修医師】
医学博士 久保田 潤一郎 もっと詳しく
久保田潤一郎クリニック院長 元杏林大学医学部助教授(形成外科学)
日本形成外科学会専門医・日本レーザー医学会永年レーザー専門医
杏林大学医学部卒業。慶應義塾大学病院に勤務し、医学博士号取得。後に、杏林大学医学部助教授(准教授)として診療を行うかたわら、後輩の指導にも熱心にあたる。数々の臨床・研究を重ね、多くの形成外科・美容外科の治療のほか、レーザーや光線療法により様々な皮膚のトラブルに対処し、皮膚レーザー療法を確立。国内外の医学会だけに留まらず、各種講演会でも積極的に講演し、自らの治療・基礎研究を主とした様々な情報や最新情報を広く伝えている。